賃借人が夜逃げしたとき、大家が勝手に荷物を処分して良いのか?
不動産を賃貸していると、賃借人が突然いなくなってしまうケースがあります。そのようなとき、大家が勝手に室内に残された荷物を持ち出したり処分したりしても良いのでしょうか?
実は大家であっても賃借人の荷物を無断で処分することは認められないので注意が必要です。今回は、賃借人が夜逃げしたときなどの正しい対処方法を東京・恵比寿の弁護士が解説します。
1.賃借人が夜逃げしたら、早急に中を片付ける必要がある
不動産を賃貸していると、賃借人が家賃を滞納したり借金を抱えたりして首が回らなくなり、逃げてしまうことがあります。そのようなとき、賃借人には部屋を原状回復する余裕がないので、室内に荷物が残されたままになっていることが一般的です。
いったん逃げた賃借人は、何か月経っても戻って来ないでしょう。そのままの状態では、大家は次の賃借人を探すこともできず多大な損害を受けるので、早急に荷物を持ち出して室内を整理する必要があります。
2.賃貸人は、賃貸借契約を解除できる
賃借人が夜逃げするときにはたいてい家賃を滞納していますし、原状回復もせず放置しているので大変な背信行為を行っていると言えます。家賃滞納期間がおおむね3か月以上になっていれば、大家は賃貸借契約を解除することが可能です。
3.大家が勝手に荷物を処分することはできない
大家が賃貸借契約を解除したら、物件内に残された賃借人の荷物を処分できるのでしょうか?
大家は物件の所有者ですし、賃借人にはもはや部屋を使用する権利がなくなっているので、中の荷物を賃貸人が収去してもよさそうに思えます。
しかし法的には、このような場合でも賃貸人が勝手に荷物を処分することは認められません。たとえ不法占拠状態でも、荷物の所有権は賃借人にあるからです。
大家が処分した荷物の中に高級品や価値のあるものが混じっていたら、後に賃借人から損害賠償請求をされてしまう可能性もあるので注意が必要です。
大家が室内に残された荷物を処分するには、法的に認められた適切な方法をとる必要があります。
4.大家が荷物を処分するための法的な方法
それでは、大家はどのような方法で荷物を処分することができるのでしょうか?
この場合、大家は賃借人に対し「建物明け渡し請求」という裁判を行う必要があります。
内容証明郵便や電話などで相手に明け渡しを促すだけでは足りません。
賃借人が行方不明の場合には、裁判所に掲示をする「公示送達」という方法によって裁判を進めることができます。
明け渡し命令の判決が出たら、今度は「明け渡し断行の強制執行」を申し立てる必要があります。この強制執行の手続により、合法的に室内に残された荷物を処分できます。
強制執行には予納金や執行業者などの費用がかかります。これらについては本来債務者である賃借人が負担すべきですが、賃借人が行方不明の場合には請求が事実上困難となります。結局は賃貸人が被ることになる可能性が高いです。
5.賃借人の夜逃げに備える方法
賃借人が夜逃げしてしまったら、大家は裁判や強制執行の手続をとらねばならず、労力的にも費用的にも多大な負担を負う結果となります。そこで、できる限り夜逃げなどをされないよう、事前に対策を練っておくべきです。具体的には以下のような方策をとりましょう。
5-1.賃借人募集方法を工夫する
まずは、賃借人を募集する際に工夫しましょう。たとえば家族入居を条件として単身者を入れないようにしたり、一定以上の収入があることを条件として、なるべく上場企業に勤めている人や、公務員を入れるようにしたりすると、逃げられるリスクは小さくなるでしょう。
5-2.連帯保証人をつける
どのような賃借人であっても、賃貸借契約時に必ず「連帯保証人」をつけることをお勧めします。連帯保証人とは、賃借人と同じ義務を負う人です。たとえば賃借人が滞納した家賃や原状回復費用などを肩代わりさせることができます。
また、賃借人の親族を連帯保証人にしておけば、実際に夜逃げが発生したときに、連帯保証人の責任で荷物を片付けてもらえるケースなどもあります。そうすれば、裁判や強制執行をせずに済むので、費用も労力も削減できます。
すぐに連絡をとれて、できるだけきびきびと動いてくれそうな資力の高い人を連帯保証人にしておくと安心です。
5-3.敷金をきちんととっておく
「敷金」をきちんととっておくことも有用です。敷金とは、賃借人の債務を担保するために大家が預かるお金です。契約終了時には返還しますが、滞納家賃や原状回復費用の不足がある場合には、敷金から差し引くことが認められます。
たとえ賃借人が夜逃げしても、敷金からまかなえる範囲であれば賃貸人に損失は発生しません。
5-4.日々賃借人の動向を観察する
日々の賃借人の動向をしっかりと見ておくことも大切です。たとえば、家賃が遅れ遅れになってきたら、支払いが苦しくなっているサインかもしれません。家賃管理を不動産屋任せにせず大家が自らしっかり対応することで、賃借人もプレッシャーを感じますし、何かあったときにも対策しやすくなるものです。
賃借人が家賃を滞納して夜逃げしたら、合法的な方法で対応する必要があります。強制執行などの難しい手続が必要となるので、お困りの場合には弁護士までご相談下さい。