週休2日制への移行ー本当に労働者に有利?
これまで週休2日制ではなかった企業が週休2日制へ移行した場合、一見すると労働者に有利な気がします。しかし、週休2日制への移行が不完全な場合、すなわち、所定労働時間の延長を伴う週休2日制への移行の場合、一概に労働者に有利となるとはいえません。
以下、解説します。
日本の企業では週休2日制が定着していると思います。もっとも、サービス業など、業態によっては不完全な週休2日制、例えば毎月第4土曜日を就業日とする、という形のものも少なくないようです。
さて、何らかの理由で不完全な週休2日制から完全週休2日制に移行するとします。このとき、使用者、労働者にどのような影響が生じるでしょうか。
説明の便宜上、会社が、隔週休2日制を完全週休2日制にする就業規則の変更を計画しているとします。この会社では、就業規則で、始業時刻午前9時30分、終業時刻午後5時30分、休憩1時間(=所定労働時間7時間)と定めており、所定の年間就業日数は264日と仮定します。年間所定労働時間は1848時間(=7時間×264日)になります。
これを完全週休2日制にすると、年間就業日数は240日に減ります(年24日減)。しかし、年間の業務量が変わらないとすると、1日の所定労働時間を7.7時間(=1848時間÷240日)に増やさなければ、会社の業務ははけないことになります。この場合に、終業時刻を42分間(=60分×0.7時間)延長して、午後6時12分にする就業規則の変更はできるでしょうか。
労働契約法第10条は、就業規則の変更は諸般の事情に照らして合理的なものでなければならないと定めています。毎週末が連続した休日になるとはいえ、賃金が上がるわけでもないのに1日の所定労働時間が42分も増えることが合理的といえるか、疑問なしとしません。
そこで、終業時刻を、午後6時まで(30分間の延長に留める。)として、所定労働時間を7.5時間にするとします。年間所定労働時間は1800時間(=7.5時間×240日)に減少します。1日の労働時間が30分間増えるとはいえ、毎週末が連続した休日になるうえ、1時間当たりの基本賃金は上昇します。これで問題はなくなったでしょうか。
そうとばかりは言えません。午後5時30分から午後6時までの30分間は時間外手当が付かなくなるからです。実際には多くの従業員が終業時刻を1時間程度超えて午後6時30分まで就労していることが常態であるとすると、終業時刻を午後6時に延長した場合には、残業手当の対象は午後6時以降の30分間だけということになります。現状において、実際に従業員がどれくらい残業し、どれくらい残業手当をもらっているかは、従業員の就労状況や収入によってまちまちであり一概には言えませんが、残業が普通になっている従業員にとっては、1か月あたり2~3万円の減収になるのではないでしょうか。そう考えると、終業時刻の延長を30分間に留めても、合理性が認められるかどうかは、微妙です。
この点から明らかなように、所定労働時間の延長を伴う週休2日制への移行は、使用者から見ると、賃金コストを圧縮する手段の一つなのです。
そこで次に、終業時刻を15分間だけ延長し、午後5時45分にするとします。年間所定労働時間は1740時間(=7.25時間×240日)に減少します。従業員が得る利益は、年間労働時間が減ること、従来隔週であったのに対して毎週末が連続した休日になること、1時間当たりの基本賃金が上昇することです。他方、不利益は、毎日の所定労働時間が15分間延長されること、及びその分だけ時間外手当が減少することです。収入の減少額が実際にいくらくらいになるのかにもよるでしょうが、この辺りが落ち着きどころかもしれません。
もっとも、以上は一つの目安として考えたもので、15分や30分が絶対的な基準ということではありません。例えば、会社にとって賃金コストを圧縮する必要性が高いという事情があるときには、週休2日制と引換えに、ある程度の所定労働時間の延長及びそれによる時間外手当の減少もやむを得ないという判断があり得るでしょう。