未払残業代が発生しやすい職種や勤務形態について
最近では、社会全体で「残業代をきちんと支払わねばならない」という意識が高まっており、一昔前と比べるとずいぶんと残業代が適正に支払われるようになっています。
しかし、それでも残業代を不払いにしているブラック企業の存在はなくなりませんし、業種や就業形態によっては残業代を不払いにされやすいパターンもあります。
今回は、未払い残業代が発生しやすい職種や勤務形態をご紹介します。
1.残業代を不払いにされやすい業種
残業代を不払いにされやすい業種としては、以下のようなものが挙げられます。
1-1.運送業
運送業は、そもそも労働時間を把握しにくいこと、どうしてもその日中に荷物を届けなければならないこと、人手不足などの事情があって、どうしても長時間労働になりやすく、過労死も多い職種です。それにもかかわらず残業代が適正に払われていないケースが散見されます。
1-2.情報通信業
情報通信業に携わる方たちも、夜遅くまで作業があったり納期に追われて徹夜で働いたりして残業時間が多くなりがちです。
1-3.電気ガス、水道事業
電気やガス、水道などの公共事業関連の業種では、設備が故障したときに放っておくことができず、労働時間を考えずに労働しなければならないケースが多数です。
一般の会社員などより残業時間が長くなりがちです。
1-4.塾などの教育産業
塾などの教育産業では、授業の時間だけではなく準備や後片付け、採点などさまざまな仕事をしなければなりません。ところが給料としては授業時間だけを評価されたりして、実際の労働時間と対価が合っていないケースが散見されます。
1-5.不動産業
不動産の営業マンなどは、労働時間にとらわれず顧客対応をしなければならないことが多く、長時間労働になりがちです。歩合制などが導入されており、適正に残業代を支払われていないケースも多々あります。
1-6.建設業
建設業では、労働時間を把握しにくいことや昔から残業代を払わない傾向があることなどから、長時間労働となっても残業代を払ってもらえないケースが多々あります。
1-7.飲食業
飲食業では、少ない人手で店を回転させるために「社員」に加重な負担がかかるケースが多々あります。特に「店長」や「マネージャー」などとなると、店の切り盛りや収支計算まですべて任されて業務量が増え、所定労働時間を大きく超えて働いても適正に残業代を支払われないことがよくあります。
2.残業代を不払いにされやすい勤務形態
以下のような勤務形態や給与計算方法の場合、残業代を不払いにされやすいです。
2-1.固定給制度
給与内に一定の残業時間が組み込まれるパターンです。たとえば月10時間までの残業代はすでに給与に含まれているとされたりします。
ただ、こういった固定給制度を導入するには就業規則に定める必要がありますし、基本給の部分と固定給の部分が明確に区別できる必要もあります。ルールが守られていなければ残業代を請求できます。予定された時間を超えて働いた場合にも残業代を請求できます。
2-2.外回りの営業マン
外回りの営業マンは「事業場外のみなし労働時間制」を適用されて残業代を払ってもらえないケースがあります。外回りで働く方は、会社側から労働時間を把握しにくく自分の裁量によって自由に働けるので、一定の時間を働いたと「みなして」個別の残業代を計算しないのです。
しかし、外回り営業であっても、携帯電話で上司から指示を受けて動いている場合など、会社の指揮監督下にあるといえる状態なら「みなし労働時間制」を適用できません。一般の労働者と同様に残業代を計算して請求できます。
2-3.課長や店長などの管理職
課長や店長、マネージャーなどの「管理職」になると、残業代を払ってもらえなくなるケースが多々あります。
労働基準法上「管理監督者」には割増賃金を払わなくてよいことになっているためです。
しかし、一般企業の「管理職」が必ずしも管理監督者になるわけではありません。
管理監督者と言えるためには、経営者側と一体になっている事情が必要です。仕事時間に対する裁量が認められず義務だけ強化されたり、労働時間が増えたのにそれに見合った給料をもらえていなかったりするならば、残業代を請求できます。
2-4.年俸制
年俸制の方は、「年俸に残業代が含まれている」と言われて残業代を払ってもらえないことがあります。
しかし、年俸制でも残業代が年俸に含まれているとは限りません。年俸を定めるとき、通常は予定される労働時間を決めるので、その労働時間を超えて働いたなら、超過勤務として手当を要求できます。
2-5.フレックスタイム制
フレックスタイム制を適用していると、会社から「フレックスタイム制の場合には残業代が発生しない」と言われるケースがあります。
しかしフレックスタイム制であっても残業代は発生します。法定労働時間の考え方が変わるので、残業代計算方法が少し異なるだけです。
長時間労働をしているならきちんと残業代を請求すべきです。
2-6.裁量労働制
裁量労働制を導入している企業でも残業代を不払いにされやすいです。特に専門職の方は「専門職には裁量労働制が適用されるから残業代が発生しない」などと言われるケースも多々あります。
しかし裁量労働制を導入するには、労使協定を締結して労基署に提出するなど厳しい要件を満たす必要があります。
また、そもそも裁量労働制を適用できる職種は非常に限定されており、適用対象でないなら通常の労働者と同様の扱いになります。
会社から裁量労働制を理由に残業代が払われていないとき、状況をよく調べてみるべきです。
未払い残業代は2年で時効にかかるので(2019年10月10日現在)、早めに請求しましょう。弁護士が未払い残業代の有無を確認したり残業代の計算、会社への請求を代行したりすることもできるので「残業代が発生しているかも知れない」と思わるなら、お早めにご相談ください。