実質は贈与の趣旨で、贈与者に課されるみなし譲渡所得税相当額を対価として売買契約を締結した事例
事案の概要
K公益財団法人は、10年前、K財団が所有する研修所に隣接する家屋をU氏に贈与しました。ゆくゆくはU氏に研修所を管理してもらおう考えていたからでした。しかし、U氏が管理人を辞退したことから、U氏はK財団に家屋を譲渡(返還)することになりました。U氏は、金銭が目当てではないから、譲渡は無償(寄付)でなければならないといって譲りませんでした。しかし、税務上、贈与は「譲渡とみなされる」ので、U氏には譲渡所得が発生し、これに対する所得課税がなされます。
U氏は、何故寄附が通らないのか、専門家の意見が欲しいと言い、K財団は当事務所に意見を求めに来られました。
解決までの流れ
この贈与が税法上の「寄附」と認められれば非課税となります(租税特別措置法40条)。しかし、そのためには、公益の増進に著しく寄与すること、公益目的事業の用に直接供されることなどの要件を充たしたうえで、国税庁長官の承認を受けることが必要です。今回の譲渡がこの要件を充たすことは非常に困難でした。
一方、この贈与が「譲渡とみなされる」場合の課税予想額は以下のとおりです。
みなし譲渡価格:土地評価額と家屋評価額の合計
(長期)譲渡所得税率:所得税15%、住民税5%、復興特別税2.1%の合計22.1%
課税(予想)額:みなし譲渡所得×22.1%
そこで、実質は寄附に違いないけれども、みなし譲渡所得課税分を補償することを目的として、名目的な対価で本件不動産を売買するという形式を取ることが妥当であるとの意見を提出し、U氏の了解を得て売買契約を締結することができました。
コメント
当事務所の意見により、形式上は売買でも、実質は贈与であるという、U氏の意向を満足させることができました。