賃貸借契約解除後に賃借人に明け渡しをさせる方法
賃料滞納などによって賃貸借契約を解除したにもかかわらず、賃借人が出ていかないケースはとても多いです。
このような場合、賃貸人としてはどのようにして「明け渡し」の手続を進めたら良いのでしょうか?
今回は、賃貸借契約を解除したにもかかわらず、賃借人が出ていかない場合にとるべき明け渡しの断行(強制執行)の手続について、解説します。
1.明け渡しの断行の強制執行とは
賃貸借契約を解除したにもかかわらず、賃借人が自分から出ていかない場合には、「明け渡しの断行の強制執行」を行わなければなりません。
明け渡しの断行とは、無権利の人が物件を占有している場合に、強制的に立ち退かせる手続です。
裁判所に申立てをして、執行官に手伝ってもらい、相手を強制的に物件から退去させて荷物なども撤去します。
明け渡しの断行の強制執行を行うためには、まずは明け渡し請求の裁判をして、裁判所から賃借人に対する明け渡し命令の判決を得ておく必要があります。
2.明け渡し断行の強制執行の流れ
明け渡し断行の強制執行の流れは、以下のようなものとなります。
① 強制執行を申し立てる
② 執行官と打ち合わせをする
③ 明け渡しの催告を行う
④ 明け渡しの断行を行う
以下で、順番に確かめていきましょう。
3.強制執行を申し立てる
まずは強制執行を申し立てる必要があります。このとき、以下の3つの書類が必要です。
・債務名義(判決書と確定証明書もしくは和解調書など)
・執行文
・送達証明書
執行文や送達証明書は、判決を下した裁判所の書記官に申請して発行してもらいます。
強制執行の申立先は、物件のある住所地の裁判所の執行官です。
印紙代などは不要ですが、予納金として6~7万円程度の費用がかかるケースが多いです。具体的な金額は、裁判所ごとの運用やケースごとの状況によって異なるので、個別に確かめましょう。
4.執行官と打ち合わせをする
次に、執行官と打ち合わせを行います。実際に強制執行の手続を進めていく段取りを調整するためです。
打ち合わせ方法は、裁判所で執行官と直接面談をすることもありますし、電話でできるケースもあります。裁判所ごとの運用状況によって異なるので、執行官に確認する必要があります。
また、執行官との打ち合わせ前に「執行補助者」を用意しておくべきです。執行補助者というのは、鍵を開けたり荷物を外に出したり倉庫に保管したりなどの実際の明け渡し作業を行う民間業者です。こういった業者に依頼しておかないと、現実の明け渡しをする人がいないので、明け渡しは成功しません。
執行補助者に作業を依頼すると数十万円程度の費用がかかりますが、業者によって金額がかなり変わるので、良心的な業者を選びましょう。弁護士にご相談いただいたら業者を紹介することも可能です。
執行補助者が決まったら、打ち合わせ時に執行官に伝えます。
5.明け渡しの催告を行う
執行官との打ち合わせが済み、執行補助者の手配も済んだら、明け渡しの催告を行います。
明け渡しの催告とは、執行官と共に物件の所在地に行き、相手方に対して明け渡しをするように求めることです。明け渡しの催告には、執行官と立会人、賃貸人と代理人弁護士、執行補助者と鍵の業者が同行します。
ただ、現実に相手に対して口頭で「明け渡して下さい」というわけではなく、物件の状況を確認した上で、物件内に明け渡しを求める書面を掲示するのが通常です。
公示書には、「物件を明け渡すように」ということと「明け渡しの期限」「明け渡し断行の予定日」を記載します。明け渡し期限は、明け渡しの催告から1か月を経過した日ですが、明け渡しの断行予定日はそれより早い日にちを設定されます。
賃借人が公示書を見ると、「強制的に追い出されるくらいなら、自分で明け渡そう」と考えることもあります。明け渡し断行期日までに相手が自分で出ていけば、実際に明け渡し断行の強制執行を行う必要はなくなります。
6.明け渡しの断行を行う
明け渡しの断行予定日までに賃借人が自分から明け渡しをしない場合には、実際に明け渡しの断行をしなければなりません。
その日は、執行官と賃貸人、賃貸人の代理人弁護士、執行官や鍵の業者が現地に行き、物件内に留置された荷物などを運び出します。賃借人が妨害しようとする場合には、必要な範囲で有形力を行使してでも妨害を阻止することができます。
運び出した荷物は、基本的に倉庫に保管され、所有者が受け取りに来るまで1か月程度は保管されますが、受け取りに来ないと競売にかけられたり処分されたりします。また、倉庫保管費用は賃貸人の負担となります。
以上が、賃借人が出ていかない場合の明け渡し断行の強制執行の手続です。かなり専門的な要素が強く、弁護士に依頼せずに進めるのは困難ですので、明け渡しを求めたい場合には、弁護士までご相談下さい。